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札幌地方裁判所 昭和28年(行)14号 判決

原告 紋別市

被告 紋別市農業委員会・北海道知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人らは、「被告紋別市農業委員会(市制施行前の紋別町農業委員会。)が別紙目録第一記載の牧野につき昭和二十七年八月二十五日定めた買収計画はこれを取り消す。北海道農業委員会が右牧野につき昭和二十八年四月二十二日した訴願棄却の裁決はこれを取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、大正四年六月十一日国から別紙目録第二記載の土地十八町五反一畝四歩(以下本件第二の土地という。)の払下を受け、以来訴外元紋別部落民に牧草畑・採草地・放牧地として右土地を共同利用させてきたが、昭和十八年頃同部落民との間に右使用関係を文書化して同年四月一日から同二十三年三月末日までの賃貸借とし、同二十三年以降も引続きこれを期間の定めなく賃貸してきた。しかるに、紋別市農業委員会は昭和二十七年八月二十五日右土地のうち別紙目録第一記載の牧野(以下本件第一の牧野という。)につき、自作農創設特別措置法(以下自創法という。)第四十条の二を適用して買収計画を樹立したので、原告は同年九月十一日右農業委員会に異議を申し立てたが同委員会はこれを却下した。そこで原告はさらに同年十月八日北海道農業委員会に対し訴願を提起したところ、翌二十八年四月二十二日棄却の裁決があり同裁決書の謄本は同年七月十四日原告に送達された。なお、その後被告北海道知事において北海道農業委員会を承継した。

二、しかしながら、原告は、前述のように本件第二の土地を元紋別部落民の共同利用に供するためこれを賃貸したのであつて、特定の個人に右土地の特定区域を使用させることを容認したことはない。かりに、部落民の一人が右土地のうちのある部分を利用していたとしても、それは部落民としての共同利用行為の範囲内でのことであるから、これを一個人の使用している牧野とみなすことは誤りであり、したがつて本件第一の牧野は当然自創法第四十条の三第一項第二号により買収から除外されるべきものである。しかるに被告紋別市農業委員会は自創法の解釈適用を誤り本件第一の牧野につき買収計画を樹立したのであるから、右計画は違法なものというべく、またこれを認容した北海道農業委員会の裁決も違法であるから、これらの取消を求める、と述べた。

(証拠省略)

被告ら代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、原告の主張事実中、

一の事実は、原告主張の賃貸借契約の相手方が原告主張のとおりであることおよび右賃貸借契約が昭和二十三年以降も期間の定なく存続していたことは否認するが、その余の事実は認める。

二の事実はすべて否認する。

右契約の相手方は訴外元紋別第一ないし第三農事実行組合であるが、同組合らは右契約の締結直後訴外高橋武夫に本件第一の牧野を転貸したので、同訴外人は右土地に自己所有の家畜ならびに他の部落民から委託を受けた二才馬を放牧して放牧の業を営んでいたのである。

二、かりに本件第一の牧野が訴外高橋個人の使用地でないとしても、自創法第四十条の三第二号の規定は市町村、財産区または農業協同組合がその所有の牧野を直接その共同利用に供している場合をいうのであつて、本件のように市町村の一部部落が市町村から借りている牧野はこれに該当しない。したがつて、本件第一の牧野を自創法第四十条の二第四項第四号に該当する牧野として買収したのは違法でない、と述べた。

(証拠省略)

理由

原告は、大正四年六月十一日頃国から払下を受けた本件第二の土地を訴外元紋別部落民に牧草畑・採草畑・放牧地として共同利用させてきたが、昭和十八年頃右使用関係を成文化して同年四月一日から同二十三年三月末日までの賃貸借としたこと、被告紋別市農業委員会が昭和二十七年八月二十五日右土地のうち本件第一の牧野につき自創法第四十条の二を適用して牧野買収計画を樹立したので、原告が右計画につき同年九月十一日同農業委員会に異議を申し立てたところ同農業委員会が異議申立却下の決定をしたこと、原告がさらに北海道農業委員会に訴願したところ、同二十八年四月二十二日訴願棄却の裁決があり、同裁決書の謄本が同年七月十四日原告に送達されたこと、被告北海道知事が北海道農業委員会を承継したこと、は当事者間に争いがない。

そこで、本件第一の牧野が原告の共同利用に供されている牧野であるかどうかについて判断する。

成立に争いのない甲第一号証、同第八号証の一・二、役場受付印の成立につき争いなくその余の部分については証人高橋武夫の証言によりその成立を認める同第七号証に、証人砂原清治、同桑原政信、同佐々木武雄、同高橋武夫の各証言および被告代表者岩倉信一本人尋問の結果ならびに検証の結果を綜合すれば、本件第二の土地は元訴外亡高橋初治ほか二・三名の者がその放牧・採草地として原告から借り受けていたものであるが、戦時中の飼料不足打開のため元紋別部落民約四十名にその採草地として賃貸することになり、昭和十七年四月頃同訴外人らから右土地の返還を受け、あらためて原告と元紋別第一ないし第三農事実行組合との間に原告主張のような賃貸借契約が結ばれたこと、右土地のうち本件第一の牧野を除くその余の部分は採草地として同部落民全員がこれを共同で利用していたが、本件第一の牧野は面積合計六町五反余で部落民全員の持馬を放牧するには狭すぎたので利用者も少なかつたのを奇貨として訴外高橋がその牧場として使用を始め、右契約後も同訴外人において自己の持馬を放牧するかたわら牧野を持たない部落民数名から管理料をとつてその所有の二才馬を預つていたこと、右各農事実行組合も右牧野を利用するのが少数の部落民であり、しかもその放牧が馬市までの短期間であまり効果的な利用がされていなかつたので、同訴外人の前記使用を黙認していたこと、昭和二十三年以降訴外高橋は右部落民の馬を預かることを拒絶したため、これら部落民は附近の町営牧場その他に放牧し本件第一の牧野を利用していなかつたことが認められる。右認定事実によれば、未だ本件第一の牧野の使用程度をもつて、原告紋別市がその市民の共同利用に供している牧野であると解することは到底できない。右認定に反する証人皆川源次郎、同長岡巖太郎、同宮尾貫一の各証言はたやすく信用することはできない。

しかして原告が耕作または養畜を主たる業務とする法人でないことは当裁判所に顕著な事実であるから、被告紋別市農業委員会が本件第一の牧野につき自創法第四十条の二第四項第四号による買収計画を樹立したのは相当であり、したがつてまた、これを認容した北海道農業委員会の訴願棄却の裁決も適法である。

すると、本件買収計画ならびに訴願棄却の裁決の各取消を求める原告の請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野沢龍雄 吉田良正 徳松巖)

(別紙省略)

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